2013年3月22日金曜日

「小室っぽい」ってなんだろう? その2



前回のエントリーであれほど
「八分音符の連打」をテーマにしながら
TM史上、一番有名な「八分音符の連打」を書き忘れていた。

            ↓

「Get Wild」の  ♪ ジャンジャンジャンジャン


 …… 伝わりますよね、コレで(笑)










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さて今回のテーマは
前回の『〜肉体性〜 編』と対をなす形で御送りする

[ポコ太の考える『小室哲哉の本質』〜精神性〜 編]




本来、この重箱ブログでは、
音楽面を主に据えているので
精神論は避けるべきと考えている。


しかしやはり「これだけは触れておかないと片手落ちになる」
と思う部分があるので
今回のみ、あえて精神論に踏み込む。








はじめに前回載せた譜面をもういちど見ておこう。




















この曲は渡辺美里の「Teenage Walk」である。



1986年「My Revolution」の大ヒットを受けて出された
作曲:小室哲哉 + 編曲:大村雅朗コンビの第二弾シングルであり、
ポコ太に『作曲家』としての小室哲哉を強烈に印象づけた曲だ。







ポコ太が初めてこの曲を聞いたのはラジオだったのだが、
譜面の部分に差しかかった時、ドキッとして
思わず体が固まったのをはっきりと憶えている。


『放送事故か?!』



なさけないが、これが最初の印象だった。



もちろんすぐに「そういうメロディーの曲」なんだと気付くのだが、
実はこれと同じように


・「金曜日のライオン」の大サビに入った瞬間
・「Maria Club」2番直前の4小節だけKeyが変わる箇所
・「BEYOND THE TIME」のBメロに入った瞬間
・「LOVE TRAIN」のサビに入った瞬間


 〜 などなどなど


小室哲哉作品を最初に聞いた時に
ドキッとさせられた記憶はいくつもある。






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「Teenage Walk」の話に戻ろう。



小室哲哉は当時のインタビューで
この曲の制作にあたり「相当なプレッシャー」があったと語っていたが、
そんなことは インタビューを読むまでもない だろう。



 ラストチャンスと全力で挑んだ
 自分達のユニットは鳴かず飛ばずで
「世間が自分達と違うところで動いている」と感じていた中、
 初めて掴んだ『ヒット曲』である。


「その次」に集まる注目(リスナーはもちろん業界内の)と
 それから来るプレッシャーは想像を絶するものだったろう。


 それは純粋に良いメロディを書くことに集中できた
「My Revolution」の時とは
 まるで違ったであろうことは容易に想像がつく。




以下の文章は『この状況』の中での作曲作業であった
ということを頭において、読んでいただきたい。






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この曲はイントロが無く、いきなりサビから始まる。
Keyは[G]
この後の曲中で、このKeyは2度と出てこない。


もう一度言う。
このKeyは2度と出てこない。





頭のサビが終わった後、
半音下にKeyを移し1番のAメロが始まる。


順調にBメロ→サビと進むが
サビが終わった後、再び半音下にKeyを移し
「そのまま」2番のAメロが始まる。




つまり1番と2番のAメロでKeyが違う!

(この傾向は後年拍車がかかり「一途な恋」では
 1番と2番がまるごとKeyが違うということをやってのけている)





そして2番のAメロの途中で辻褄を合わせるように
何の予告も無く半音上にKeyを戻す。





その後のBメロでは1番のBメロと小節数が違う。
ここで出てくるのが先程の譜面の部分である。


今度は歌詞付きのものを御覧いただこう。


















この『八分音符の連打によるたたみかけ』によって高まった緊張感
その後のサビによって見事に解決される


この開放感は1番のサビとは比べ物にならない。









以上あげた、この曲の特徴は
小室哲哉作品が蔓延した80年代後半〜90年代を経過した今では
『当り前』となった手法だ。



しかし86年当時、10代の女の子が歌うPOPSとしては

あえて言うが
「支離滅裂」にさえ思えるメロディー構成 だった。

(歌詞や編曲を忘れて、純粋にメロディー展開だけを頭に思い浮かべてほしい)








もうひとつ注目すべきは編曲だ。

正直「My Revolution」のヒットは
『大村雅朗作品』としての側面も大きい。


しかし「My Revolution」では装飾的だった大村雅朗による編曲が
この曲では小室哲哉の『イビツさ』を隠そうとせず、
そのまま後押ししている




これは「My Revolution」のヒットにより、
スタッフ一同に、小室哲哉の『イビツさ』が
十分リスナーに受け入れられると確信させたためだろう。
スタッフにとっても大きな賭けではなかっただろうか。







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さてここで、もういちど
当時の小室哲哉が置かれた状況を思い起こしてみてほしい。




あなたが作曲家だとして、
この「絶対失敗出来ない」状況の中で、
当時の常識からすると、とてもプロの作品とは思えない
『イビツ』なものを提出出来るだろうか?



また、あなたがディレクターやプロデューサーだったとして、
まだネームバリューも無い作曲家が提出してきたものが
先程の『一見、やけくそにさえ思える譜面』の様なものだったとして
OKを出せるだろうか?




彼らは『変化球をねらった』のだろうか?





そうではないことは
このブログを読んでくださっている方々なら御存知だろう。







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これは『(常軌を逸した)転調』にも言えることだが
『小室哲哉』を世に送り出した精神とは、



当時の常識から考えて、とてもプロの作品とは思えない
『イビツ』なものを恥じらうこと無く
「それでもこれが良い!」と思える本人の感性説得力

           +

その感性を信じ「これを世に出そう」と思えた
小坂洋二、他の若い感性のスタッフ


の結晶。



であって、これはいくら楽典を勉強しようが、
彼の曲を分析しようが、どうなるものでも無い。


あえていえば、前回冒頭でポコ太が指摘したように、
『丸呑み』するしかないだろう。







今回は小室哲哉にフォーカスしているが、
もちろん渡辺美里にとっても重要な局面だったはずで、
もし「TM NETWORK」と「渡辺美里」のプロデューサーが
同じ小坂洋二でなかったら、
この曲がそのまま採用されていたかも疑問だ。

(実際、もし売れなかったら「こんな無茶苦茶な曲」と冷笑されていただろう。
 そして、その後のTM NETWORKの方向性にも影響が出ていたと思われる)






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もちろん単なる「無茶苦茶」であれば
何回聞き直しても「無茶苦茶」だ。



小室哲哉作品の凄みは
一度目には「無茶苦茶」に聞こえたものが
二度目からは「味」に聞こえ、
三度目には「かっこよさ」に変わるところだ。


そして最初「無茶苦茶」に聞こえたのは
自分自身の「音楽とはこういうものだ」という
凝り固まった概念が原因だったと気付かされるのだ。




そういう意味で小室哲哉本人も凄いが、

当時のスタッフ達の眼識には敬意を表したい。

(TM NETWORK が『Epic/Sony』の所属で本当に良かった。
 まさに「Epic/Sony Yeah!(by 大江千里)」だ)






かつて、PSY・S の松浦雅也が

「プロって経験を重ねるほど無意識に
(日曜大工でいえば)上からニスを塗ったり、
 継ぎ目を目立たないように処理したりしちゃう。 
 自分はそういうものに魅力を感じない」と述べていた。




やはり創作活動とは多かれ少なかれ
自分自信の『イビツさ』を晒すものである。
『イビツさ』を晒すことは恥ずかしいことであるが
『イビツさ』の無いものに人は魅力を感じない




今回のエントリー、
実はポコ太自身に対する戒めとして書きおこした。










では最後に「Teenage Walk」を聞いて
今回のエントリーを終わるとしよう。


んじゃ、また。







【関連エントリー】


「小室っぽい」ってなんだろう? その1







5 件のコメント:

  1. こんばんは。
    最近、こちらのブログを知った者です。
    ポコ太さんの独自の着眼点から凄くTM愛を感じるブログですね。

    私は音楽知識など無いに等しいため、コード進行やキーなどといった事は良く分かりません。そのせいか小室さんが作曲した曲を初めて聴いたときも何の違和感も抱きませんでした。
    小室節と言われる耳に残るメロディーはこういうところから来ているのですね。そのせいか歌いづらい曲が多いのも印象的ですね。
    (カラオケを意識したと言われる「Love Train」さえも歌いこなすのは難しい…)

    TMに関しては様々な逸話がありますので、そちらの方も是非期待しております。
    デモテープの裏話なども密かに期待しております(笑)

    また来週に期待しております。
    お体にお気をつけて頑張って下さい。

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  2. コメント、どうもありがとうございます。
    『FANKS大仏』って『オカムラくん』のことですよね。懐かしい…。


    いやいや、音楽を楽しむのにコード進行やキーも必要ないですから。
    分からないゆえに、かえって本質を気付くってこともありますしね。
    これはあくまで「僕がそう聞こえた」っていうだけの話ですので、
    重要なのは楽しむことじゃないでしょうか。


    「Love Train」僕も当時、どこが「カラオケっぽい」んだと思いましたよ。
    「We Love The Earth」のAメロなんて、低いところ
    (♪〜月明かり照らさ『れて』←ココとか)が、宇都宮にさえ歌いにくそうに聞こえます。

    ひょっとしたらカラオケを意識したっていうのは歌詞やサウンドのことのかもしれませんね。
    「Love Train」の頭のSEは「ラブ・ストーリーは突然に」を意識したそうですし。



    体までお気遣いいただきありがとうございます。
    今後ともよろしくお願いします。

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  3. 昨日のエントリーから、遡って2013年のエントリーを見させていただいているんですが
    このエントリーで目がアツくなりました。

    Aliveのサビも気持ちいいですものね〜
    それもこれも当時の皆様のおかげだと気付かせてくださってありがたいです。
    (当時の)EPIC SONY yeah! ですね!

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    1. 努力なくしては何事も始まりませんが、
      メンバーやスタッフなどとの出会い、あるいは時代の巡り合わせなど、
      努力だけでは、いかんともしがたい面もあるのもまた事実。

      逆に考えると、世に出ることなく終わった
      物凄い才能も山程いたんでしょうね。
      まあ、ともかく EPIC SONY yeah ! ですね!

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  4. 今日初めて拝見して、心を動かされました。自分が小室さんの何に魅かれ、何を尊敬したのか、教えられたような気がしました。それと同時に小室さんの曲を初めて聴いた時の感動と驚き、その感覚を思い出しました。

    小室哲哉といえば転調がよく取り上げられますが、転じること自体よりもそれぞれの調の雰囲気によって曲の流れ、展開を生み出す手法の可能性を考えたいと思いました。小室サウンドの表層をさらった当時の多くの楽曲群の多くは、やはりそこに純小室サウンドとの差があったと思います。おそらく彼のロジック(たとえ感覚的であっても理由があるはず)によって裏付けられた独特の音楽世界、その中身をより知りたいと思いました。
    「Teenage walk」の2番のAメロは今でも多くの人に衝撃を与えると思います。

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